人魚は今日も歌の練習に余念がありません。
そこに通りかかったのは知り合いの海亀。
今日も今日とて、そら涙をホロホロと流しながら
海の生き物達に「手を取り合って人間を倒そうー」と呼びかけてきた帰り道でした。
(もちろん、そんなことが実現するわけがないことも、そうしたからって何の
幸せにもならないことは長く生きてきている海亀ですから充分承知しています。
ただ、もぅずっと長い年月、そういうことを訴えて生きてきたので、
すでに生き方に引っ込みがつかなくなっているのです)
「いつ聞いてもすごいねぇ、人魚の歌って」
「もちろんよ。アタシはとっても上手いのよ。
どうしてみんな近くに寄ってきてアタシの歌を聞かないのかしら?」
「そりゃあなたが歌ったら海が荒れて大変な事になるから近づかないんじゃないの」
「多少苦労があってもいいものは聞きに来るべきよまったく。あぁアタシって不幸」
<こいつから被害妄想を取ったらウロコぐらいしか残らないだろうな>
と思いながらも、海亀は
<まぁ、いいか、こちらに被害が及ぶことも無し>
と、いつものように人魚の愚痴をきいてやっていました。
「それで、今日は収穫がありそうなの?」
「ほらみて、あの氷山の向こう。処女航海の客船だって。きっとお宝がたっぷりだわ。
あとはアタシの歌で嵐を呼んで沈めちゃえばバッチリよ」
「まったく、人魚ってってのは良心のかけらもないわよね」
「あーらっ、アタシはあなたみたいに何も考えずにポロポロ泣けるような才能は
もっていないわよ。一緒にしないで」
人魚は一瞬だけ冷ややかかに笑うと、また微笑をたたえて歌い始めました。
人魚は人間でなく魚でもない、中途半端な存在です。また、身体も魚たちを相手にするには
大きすぎ、かといって海獣を相手にするには小さすぎるので、
結婚相手がなかなか見つかりません。
おかげで毎日ストレスがたまって、どんどん過激な性格になっていました。
人魚がやけっぱちの大声で歌うとともに、天気はどんどん悪くなっていき、
処女航海の客船は波と風にあおられ、いまにも沈没しそうです。
♪風よ吹け。雷よ煌け。天よ泣け。あぁアタシってなんて不幸ー♪
などと歌っている人魚を見て海亀は
<こいつだけは敵にまわしたくないな>
と思っていました。
そしてとうとう、客船は氷山と激突し、みるみるうちに沈み始めました。
「おや、とうとう船が沈むよ!」
海亀は手をたたきます。
人魚も満足の笑みをたたえて、
「やったぁお宝だぁ!これでしばらく遊んで暮らせるわね」
と喜んでいます。
客船はとうとう水に突き刺さったように立ち上がり、
人間が海につぎつぎと落ちてゆきます。
「あーあ、ありゃダメだわネ。ま、仕方ないわ」
人魚は冷淡に言い放ちます。
「可哀想だよねー。でも、人間なんて海の魚主主義の敵だからさ、
平和のためには殺し合いだって許されるのよ」
明るい平和主義をつらぬく海亀らしい言い方です
さて、次の日。
台風一過で晴れあがった空、手に入れたお宝の品定めのために、
人魚は近くの小島にやってきました。おこぼれにあずかろうと海亀も一緒です。
すると、浜に1人の男が流れ着いているのを見つけました。
「うわっ、昨日の客じゃないのー。やだぁ汚い。海に帰しましょう」
「あ、でも、まず生きてるかどうか確かめるべきじゃない」
馬鹿は馬鹿なりに海亀は人魚よりは少し分別があるようです。
「あっ、これは・・」
なんと、男は生きている様子でした。
ただし、この男・・・。ヒドイ外見でした。
当初、ドザエモンだと思ったのは彼の顔があまりに大きかったので
死んで水を含んでパンパンにふやけているんだろうと思ったのが理由なのですが、
そうではありませんでした。この男、もともと顔が異常に大きかったのです。
まさにその男の顔は、身体の1/3はありました。
海亀にとってヒトの美醜は興味ありません、
しかし、それでもヒドイ顔だということは理解出来ました。
大きな顔にシジミのような目。マンボウのような口もとからのぞく歯は
虫歯でがたがた・・・
うすらデカイ農民のような手。陽に焼けたどす黒い顔。乱れた髪、
顔を見ているだけで充分想像がつく、曲がりくねった根性。
これはまさしくブサイクと言うしかない生き物でした・・・
「生きて・・・る」
海亀の言葉に人魚は目を見開いてだまってうなずきます。
<いかん、これはキレる・・>
海亀は思いました。
まちがいない、こんな醜い男だもの。珊瑚礁に叩きつけられてミンチにされて
氷山の向こうに投げられるだろう・・・
しかし予想は見事に外れました。
「なんて、素敵な方・・・!!」
人魚はうっとりと、そう言い放ったのです。
<こいつ、根性が腐っているとは思っていたけど、目も腐っていたのか>
海亀は思いました。
人魚はまるでこの世で最高の男を見ているような夢見がちな眼差しで、男を見つめていました。
「というわけで人間になってあの男をとっつかまえるの。よろしく頼むワおばあさん」
なんの躊躇もなくそう言い放つ人魚を見て、タコの魔法使いはため息をつきました。
「ほんとにどうしようもないわねぇ。自分の都合だけで行動してわがままな事ばかリ・・
まわりの迷惑なんてのは考えた事もないんだろぅ」
「何を言うの。アタシほど不幸な人魚はいないわよ。」
タコはため息をつきました。
「まったく何を考えているのかね。いや何も考えていないか・・・
年長者に物を頼む頼み方も知らないんだから」
「うるさいわね。ワカメと一緒に刻まれて酢漬けにされたいのっ!
さっさと出すもの出しな」
「出すものって、そんな簡単に人間になんてなれるワケないだろうが」
「いいから人間になるの!なんとかしてくれないとグレてやるから!」
もうすでに充分グレてると思うのですが、誰もそれを言う勇気はありませんでした。
「ああ、もう……仕方がない」
タコはため息をついて薬を取り出します。
「これで、人間になれるの?」
「ああ、ただしいくつかの条件があるよ。第一に・・・」
人魚はそんな話は聞いていませんでした。
まだタコがしゃべっているうちに薬を引っつかむと威勢良く薬を飲み干しました。
「あぁ、だからまだ説明が・・・」
「説明なんて聞いたってわからないわよっ!くそババァー!」
とことん体育会系のオツムの人魚でした・・・
そして・・・。
目が覚めると彼女は人間になっていました。
で、大喜びして笑い声を出そうとした人魚は、声が出ないことに気がつきました。
<あのタコ、副作用があるなんて説明しなかったくせに。
帰ったらイカ裂きにしてやる>
いや、タコはイカ裂きにはできないと思います・・・。
第一副作用の説明をしようとしたら
そんなこと聞きもしないで薬を飲んだのは人魚なのですが、
悪いことは全部まわりのせいにするという性格でしたので1人で憤慨していました。
<ま、いいや、人間になったんだから>
声のない高笑いをして、人魚は人間の里にたどりつきました。
例の男が里の八百屋のドラ息子であることは、とっくに調べがついています。
たまたま納品に行った豪華客船の倉庫で居眠りしていたら船が出港してしまっただけ
という乗り合わせでした。ただ、納品に行くにはいい服装を着て行っているので
最初から密航でもしてお宝泥棒をもくろんでいたのかもしれません。
さてさて、ドラ息子。今回の客船の沈没から奇跡的に無事に生還したおかげで、
「俺には幸運の女神がついてる」
とかと言い出し、前にもまして手のつけようがない札付きになっていました。
そんな彼の家に、口のきけない女性が訪ねてきた・・・
そのことは近所でも評判になりました。
筆談によると彼女は例の客船の沈没の際、
ドラ息子に助けられたとのでお礼をしたいとの事でした。
「八百屋のドラ息子がヒト助けをした」
里には噂が飛び交いました。
訪ねてきた女性は謎めいた雰囲気ながら、いつも優しく微笑み、
マンボウみたいな男にかいがいしく仕えている・・・
「命を助けられたとはいえ、なんてけなげなんだろう」
ま、もしも彼女が口がきけたなら、
きっとその評判なんて木っ端微塵にぶっとんじゃったでしょうけど・・・。
ドラ息子の両親も彼女のことを気に入り、
この子が息子の嫁になってくれたらなぁと思っていました。
しかし。ドラ息子は、彼女のことが気にいらなかったのです。
そう、なにも人魚だからって美人だとは限りません。
不細工な人魚がヒトになったところで不細工なヒトになるだけです。
「謎めいてけなげな女性である」
という評価に「美人の」という形容がついているわけではなかったのです。
もちろん、ドラ息子の両親にして見れば息子が贅沢を言えるような外見ではないことは
百も承知ですから、美人でなくても息子を気に入ってくれているような貴重な女性を
嫁に迎えたいとおもっているのですが、当のドラ息子はそうはいきません。
「金髪より黒髪だぜー、だいいちあいつ貧乳だしな・・
いや、胸なんて全然無いよなー。足も手もガリガリだしよ、チビだしなぁ。
やっぱ俺としてはもっと女らしさに満ちた方がいいんだよなぁ」
と、人魚には目も向けません。
両親は、彼女が息子を変えてくれないだろうかと期待していたのですが、
近所でも評判のドラ息子。そうそう変わるわけもなかったのです。
いや、だいたいヒトの根性と言うものは1度曲がったらそりまま。
どうやったって悪いヤツは悪い方にしか変わらないものなのです。
「人生=彼女いない歴」だった自分に、好みのタイプではないとはいえ、
若い娘がそばに来てくれている・・・
「そうか・・・もしかしたら俺は魅力的なのかもなぁ・・」
馬鹿が自信をもつほど始末の悪いものはありません。
元来、虚勢をはるタイプと言うのは
実は心の中に自己嫌悪というコンプレックスを抱いての反動なのです。
それがなくなってしまった今。もはや何も彼をとどめるものはありません。
乱暴な言葉遣いも、粗暴な振る舞いも、よりエスカレートし、
もはや非道・外道の領域です。
ところが世の中、どうなっているのか。
そんな鬼畜な男に言い寄ってきた女がいました。
同じく里の嫌われ者のアバズレ女でした。
「ちょいとぉー、アンタさぁ。沈没から帰ってきてからなんかいいじゃーん!」
もちろん阿呆です。
でもそういう筋肉系のオツムには引かれあうところがあったのでしょう、
二人は早々にデキてしまいました。
さてさて、人魚
「なによあの女っ。巨乳だけの、ブヨブヨじゃないのっ!
そんな、アタシの方が絶対キレイだわ。心もまっとうだわ!!
そもそもアタシの方が先にあの人を好きになったのよ!!!」
はい、よくありますネ。
「アタシの方が先にあの人を好きになったのよ!」
恋においてこれほど身勝手な論理はありません。
しかし、それが身勝手であると理解出来る程度のオツムがあるのなら、そもそも
あんな男にゃあ惚れないわけですから仕方ないでしょう。
と、まぁ、人魚のイラダチをよそに、
アバズレ女とドラ息子は「できちゃった婚」をすることになっちゃいました。
結婚式の終わった夜でした。
人魚は夜の道をただ一人ひたひたと歩いています。
その手にはよく磨かれたナイフが握られていました。
「愛するひとの幸せこそが、あなたの幸せです」
電柱に貼られた十字架のマークの張り紙を見て
「じゃかぁしいっ!!くそボケ!!」
と心の中でののしり、電柱にケリを入れる人魚。
「欲しいものがあったら手段を選ばす絶対に手に入れる。それが自由!!」
いつも海亀がとなえていた言葉が脳裏を渦巻いています。
「殺す!!あのアバズレを・・・腹の子供ごと殺っちゃる・・・
あの女がいなくなったらあのひとも目が覚めるわ」
目が据わっています。
ナイフを握りほくそ笑む人魚。
そして目的の結婚初夜を迎えている新居の前に来ると、
足音をひそめて、扉に近づいていきました。
あらかじめ作っておいた合い鍵でそっと扉を開けて寝室に向かう人魚。
「みんなあの女が悪いんだわ・・・だからこれは正当なのよ」
心の中で唱えながら、夫婦のベッドに近づいていきます。
イビキをしながら歯ぎしりをしているドラ息子の顔を見つめ、
おもむろに隣に眠る妻に包丁を突き立てる人魚・・・
「えっ?・・・」
なんと手ごたえがありません。
そう、アバズレ女は亭主が寝入ったのをいい事に、
盛り場まで男アサリに出かけてしまっていたのでした。
「なんという女だ。だからこんな女とは・・・」
と、ドラ息子の方を見ると、ベッドの枕元には置き忘れられた女物の髪飾り。
あきらかにアバズレ女の物ではない、と言うかこれは結婚式の支度をしていた
メイドが身に付けていたものでした。
人魚は、衝撃を受けました。
ここまで人間と言うのは最低の生き物だったのか・・・
やはり海亀と一緒に鉢巻きをして、
人間打倒のシュプレヒコールをしていた方がよっぽどマシだった。
後ろを振り返ることもなく家を飛びだした人魚。
走り続けてたどりついたのは海でした。
やはり人間は最低の生き物だった・・・海に帰ろう・・・
勝手なものです。そうそう海だって甘くはない。
普通は詫びの1つも入れるべきものなんですが
そんなことはおかまいなしのワガママ人魚でした。
人魚は、海へと身を投げました。
落ちてゆく人魚の身体。その先にはたまたま泳いでいた海亀が・・・
・・・スパコーンっ!!!・・・
「あれっ?」
「あれっ?じゃないわよっ!!いきなりうえに落っこちてきてさぁ・・
おかげで甲羅にヒビが入っちゃったじゃないの」
海亀がにらんでいます。どうやらそこは、タコの魔法使いの洞窟でした。
「おかえり」
タコの魔法使いが言います。
「え?帰ってきたの?」
「帰ってきたのじゃないよ全く。アンタねぇ地上では指名手配だわよ。
何があったか知らないけど、あのアンタが惚れたとかって人間をグチャグチャの
ミンチにして逃げちゃったって・・・」
「あ・・・」
そういえば、アバズレ女を殺りそこなった腹いせに、
そこいらをナイフでめった突きにしてきたっけ・・・
♪世の中一寸先は闇だぁーッ ああぁアタシってなんて不幸ー♪
今日も唄いながら嵐を呼ぶ人魚
それを見ながら海亀はつぶやきます。
「幸せとは愛する者の幸せを見ていること・・・
そんな事が心から言えたら、それこそ幸せ者だよねー」
とんと昔の事じゃった。
あるところに、シンデレラという名前の可哀相な女の子がおりました。
あ、とんと昔といいましても「白亜紀の終わり頃の三葉虫の物語」などというような、
主人公がいかに可哀相であっても、「可哀想な三葉虫の場面」などという
想像するだけでDDTを散布したくなるような昔の話ではありません。
また、あるところといいましてもシンデレラなんて名前をつけるわけですから、
最低限、山科郡川田清水焼団地でのお話などと言う事もありません。
まぁ、欧州のどこぞであろうとご理解ください。
さて、シンデレラがどうして可哀相なのかといいますと、彼女は継母の子供である
二人の義理のお姉さん達に毎日ちまちまといびられていたことが理由なんですが、
この時代。そんなこたぁさほど珍しい事ではなかったんですね。
でも可哀想と言う事にしておかないと
話がすすまないので可哀想だと言う事にします。<(それでいいのか)
それでですね、このシンデレラの本当のお母さんはどうしていたかってーと、
何も「幼いシンデレラを残して早世」なーんて事じゃなく、
甲斐性の無い旦那を見限り、子供をほったらかしにして他の男のところにトンづらこいて
いたのでした。かといってこれも当時は珍しいことでなんでもありません。当時の欧州は
生まれた男のうち成人にまで生き存えることが出来るのは1/3の時代です。
女としては強い男の種をいただくことが使命ですから別段どってことのない行動でした。
なんたって、自分が生んだ子供を全部把握しているような母親なんていなかったんですから。
ではではシンデレラの継母はどうだったか。これは地主レベルの資産家の娘です。
たぶん伝染病か性病であっさりと旦那が逝っちゃって寂しいんだけど、
次の旦那をもらうには領主の許可状もらったり所領分割の手続きをしたりが
面倒くさいしものですから、シンデレラのお父さんのような「オクサンに捨てられたダンナ」
のような連中が当時半人前扱いを受けていて、囲い者にしてもよかったので拾ったら
もれなく子供がついてきたって事です。それでも
シンデレラが「下僕のように働かされていた」とはいえ、
身分を下僕に落とされたわけでもないし、ましてやさばいて食べられちゃっても不思議じゃない
時代に姉達と一緒に住まわされていたって事は。充分に配慮のある継母と言えますネ
<(をいっ、ぜんぜん救いがないぞ!)
ちなみに、彼女の名前の「シンデレラ」ですが。これは本名ではありません。
♪あー、もちろんあだ名にっ きまってますっ♪
本名は「エラ」といいます。んじゃあ、そのエラちゃんがなんで「シンデレラ」
などと呼ばれているかといいますと。彼女がいつもかまどのお掃除をさせられていたために、
その灰まみれになっているので「Cinder(灰)-Ella」略してシンデレラと呼ばれていたのです。
さっき、彼女が可哀想であるといいましたが、灰まみれになるほどかまどの掃除が
必要と言う事は、この家ではそれだけ食べ物を調理していたということです。
これは相当に恵まれた家です。飢えないで住むってことだけでチョー幸せな時代ですから。
それにあだ名がつくと言う事は、家族にシカトもされていなかったと言う事です。
考えてみれば現代の虐待などに比べるとシンデレラの境遇はぜんぜんマシだったと言うか、
今の虐待はシンデレラ以下というか・・・
<(をーい、話が進まないぞー)
でもこれでシンデレラが「薄幸の美少女」であったとかって事ならまだお話は
進んでいくのですが、そんな事は「決して」ありません。
もしも彼女が美少女であったなら、貴族の囲い者として売っちゃえば
一族ウハウハの生活ができます。かまど掃除なんてさせるワケなどありません。
義理のお姉さんなんてポイです。下手すりゃア殺されてスープにされてしまいます。
さきほども書きましたように、当時では当たり前の事なんですから。
そう、シンデレラはそんな期待のできる女の子では無かったのですねー。
まず第1に「チビ」。そして「ガリ」。
まぁ、幼少の頃にお母さんがどっかに行っちゃったので発育期の栄養状態が悪かったので
しょうから同情の余地もありますがこの時代の美人の基準はとにかく
グラマーで健康体であること。なんたって子孫を残さなくっちゃなりませんからね。
そんな時代にチビガリのシンデレラが振り向いてもらえるワケがありません。
シンデレラなんてもはや「評価に値せず」ってやつです。
じゃあ仕方がないからアタマでもよけりゃあつぶしがきくのですが、これが大馬鹿者(笑)
そりゃぁ、「オクサンに捨てられたダンナ」みたいなのの遺伝子背負ってるんですから
切れ者のわきゃあありません。それどころか乳幼児期の栄養欠損のおかげて時々オツムが
逝っちゃいました。「切れ者」じゃなく「キレる者」だったのです。
だいたいがシンデレラって呼び名のもとになった「灰かぶり」。
いくらなんでもかまど掃除の度に灰をくらってるって、要領が悪いって事なんですから。
義理のお姉さん達にしたら、本当の下僕達にバカにされないために、ワザと「シンデレラ」
なーんて呼び名をつけてあげて、お笑いネタにしてフォローしてあげようと
していたのかもしれません。
・・・なんだかシンデレラってぜんぜん同情できないぞ。
ではでは、生まれてこの方「男居ない暦=年齢」という日々をおくる
可哀想なシンデレラのお話です。
「あーあっ、つまんないなぁ。
このまま派手な事がなんにもなくって人生終わっちゃうのかなぁ」
などと今日も今日とてぶつぶつと呟きながら家事をこなすシンデレラ。
いくらトロいとはいえ、毎日毎日同じ事をやってりゃあ多少は要領を身に付けます。
洗濯をしながら、スープの鍋を見張り、ついでにお風呂の湯加減調整なーんて
技も身に付けました。
本人にしたら、
「こんなにうまく家事ができるのになんでアタシってもてないんだろ?」
などと思っているのですが。そりゃダメですよね。
「よい主婦=いい女」のわきゃあありません。
生活臭が染み込んだ女性は男にとっては「おばさん」という別の生き物なのです(笑)
ま、そんなことは思いもしないで、
「アタシの人生はこれでいいのか、もっと違う生き方があるのではないか」と
志しの炎を密かに燃やしながらも
生ゴミを出す日を間違えて近所のおばさんに嫌みを言わたれ、
笑顔で謝る屈辱の日々を送るシンデレラでした。
さて、ある日のことです。義理のお姉さん達が思いつめたような顔で彼女に言いました。
「シンデレラ、私達に国王陛下からご招待がありました。これからお城に行ってきます」
「え、ご招待ってなんですの?」
「手に持った雑巾を振り回しながら聞くのはやめなさい。水が飛ぶでしょ。
とにかく私たち二人は今宵お城にまいらなくてはなりません。
あなたを下僕扱いしていたおかげで幸いなことに召集の連絡は私たち二人だけでした
いいですかシンデレラ。夜が明けても私達が戻らなかったその時はあなたがこの家の
後継ぎになったと思いなさい」
「後継ぎって・・お姉さま?」
そこに王宮からの迎えの使者がきました。
姉さんたちは互いに顔を見合わせて、覚悟をきめたような顔でいいました。
「それでは、行ってきます。お留守番お願いしますね」
二人は出迎えの馬車に乗って、お城へと出発します。
「いったいなんなんだろ?お城からお迎えなんていいことじゃないのかなぁ?それを
あんなに思いつめた顔で??」
その夜のことでした。
シンデレラがおトイレで豚をながめながら用を足していると・・・
(あ、この時代どこの家でもトイレは高床式になっていて、その下では豚が
飼われていました。汚物処理と肉の補給の一石二鳥です)
一匹の豚と目が合いました。豚は何かを訴えるような目でじっとシンデレラを見つめます。
「え、何なの?そんな訴えられたって解らないわよ」
と思わず呟いた時。
シンデレラのそばにいきなり黒装束のお婆さんがあらわれたのです
「豚はあなたに危機を訴えているのよ」
「うわっ!びっくりしたぁ!!なんなのあなたはっ、
オシッコが止まっちゃったじゃないの」
「ヒロインがそんなきちゃない事をいうものじゃない。私は魔法使いよ」
「魔法使いー?それって、広場であやしい薬を売ったり、墓荒らしをしたり、
堕胎を請け負ったり、売春の斡旋したりする税金逃れの異教徒の事?」
「そういう時代考証に基づいた事を言うんじゃないの。お話が進まないでしょ。
あたしは不思議なことができる魔法使い」
「魔法使いって、そんな職業があるわけないじゃないの」
「なにを言うの。ドラクエなんて遊び人でも職業なのよ。なんてうらやましい
・・じゃなくってあたしはあなたがお城に行けるように手助けに来たの」
「手助けって、あたしはお城になんて行きたくないわよ」
「行かなきゃだめなの。お姉さんたちの身に危機が迫ってるんだから」
「危機って?」
「今夜は年に1度、国中の若い娘が集められる日。幸いにあなたは目立たないように
暮らしていたから召集はかからなかったけど・・・今夜のお城は戦場なの。だから
あなたはお姉さん達を助けに行きなさい今すぐに」
「なによ、その直訳文命令形は!」
「いいから行きなさい!ほらっ、用意してあげたからっ!」
と、言うと自称魔法使いのお婆さんは袋の中からドレスを取り出しました
「なんか古めかしいスタイルのドレスだわね。それにかび臭いし」
「1年位土の下にあったからねぇ。気にしなさんな」
「土の下って・・・あー、やっぱ墓荒らしやってんじゃんか!」
「ごちゃごちゃ言わないっ!ほら、馬車の用意も出来てるわ」
「馬車って・・・これ死体運搬車じゃない。
それになによ馬の代わりに豚がつないであるし」
「しょうがないでしょ。馬は食べちゃったんだから。豚で充分。さ、行きなさい」
シンデレラはなんとか逃げようとツッコミまくりますが、魔法使いは全然動揺しません。
強引にシンデレラを馬車に放り込みます。
「あ、そうそう。夜が開けると魔法が解けちゃうから気をつけてね」
「魔法って・・いったいどこが魔法なのっ!。だいたいが午前〇時じゃないの?」
「この時代は日没から1日が始まるから夜明けが真夜中なの。だいたいが時計も
ない時代に午前〇時の鐘なんておかしいじゃない。まったく時代考証がなってないわ」
「時代考証に基づいた事を言うなって自分が言ったくせに・・・」
「いくわよーレッツゴー!!」
シンデレラを乗せた馬車(豚車)はそのまま戸口を突き破り、
お城へむかって走り始めました。
馬車(豚車)は未舗装の道を爆走してゆきます。
考えてみればこの時代、馬車なんてのは急いで突っ走るように出来てはいません。
道がガタガタなんですから乗ってるほうはたまったものじゃあありません。
そのうえ豚は猪突猛進(いや、豚なんですけど)
あちこちの木や建物にぶつかり飛び跳ね、大騒ぎ。シンデレラはパニック。
「ごめんなさいもうしませんごめんなさいごめんなさい」
もはや恐怖が頂点を越えてしまったのか、
ぶつぶつとうわ言のようにごめんなさいを繰り返しているシンデレラ。
すると、車がぴたりと止まりました。
「着いたわ」
魔法使いは平然として言います。<(恐ろしいやっちゃな)
「ほら、行くわよ」
「いやー。なによー、今度はどこに行くのよー。もういやよー」
「ぶとうかいよ」
「は?」
「ほら、あそこ」
と、明るく照らされたコテージを指差しました。
ちょうどそこにコテージから一人の女性が転がるように飛び出てきました。
その足取りは頼りなく、何度となく転びかけまるで酔っ払っているようです。
しかしよく見るとどうやら酔っ払っているのではない様子でした。
そして、シンデレラのすぐそばまでやってくると、そこでばったりと倒れ伏してしまいます。
乱れたドレスには血がこびり付いています。
「え、どういうこと?・・・わっ!死んでる」
「ほら、あなたもこの剣をもって」
魔法使いはシンデレラの背中を押してコテージに押し込みました。
そして思わず目をみはります。
そこは、まるで戦場でした。
広いホールには、豪奢な衣装をまとったたくさんの女性が積み重なるように倒れていました。
そして床のあちこちには血溜まりの後が・・・
「な、なんなのよーっ!!」
魔法使いは黙って螺旋階段の上に掲げられた看板を指差します。
そこには大きく「国王陛下主催 大武闘会」とかかれていました。
「シンデレラ!なんであなたがここにいるの」
「あ、姉さん!!」
姉達は手には血に染まった抜き身の剣を手にしていしました。
そして、ドレスはあちこちに返り血をあび、ボロボロになっています。
「なんであなたまで武闘会にくるのよ」
「そうよ、みんなやられちゃったらこまっちゃうじゃない」
「と、いうか、なんなんですがこの武闘会ってのは」
「武闘会は武闘会よ。夜明けまで生き残った娘が国王殿下の夜伽の相手ができるのよ」
「そう、強い女の血筋を王族に残すための武闘会なの」
「ええーっ!」
「どうせあなたが参加したところでさっさと殺されちゃうだけだろうから、
せめてもの後継ぎにと残らしたのにもぅ」
「仕方がないわ、3人力を合わせてなんとか最後まで生き残りましょう」
さて、バトルロワイヤルの必勝法。それは徒党を組むことです。
シンデレラ達は敵を1人ずつ3人で取り囲んでは突き刺してゆくという効率的な方法で
<(それ、卑怯っていわないか)
次々と敵を倒してゆきました。
そして夜明けの鐘が鳴り響いたとき。武闘会場に立っているのは彼女達3人だけだったのです。
「どうやら生き残りはお前たちだけのようだな」
重々しい声が響きました。この国の国王です。
「しかし、3人も残られても相手をするわけにはいかんなぁ」
王は冷ややかな笑いを浮かべます。
「仕方ない、誰かが残るまで武闘会を続けるか」
「その必要はないわ」
いきなり背後からの声に国王は驚いて振り返りました。
「考えてみたら強い女がいるんだから男なんてのは誰でもいいわけよね」
シンデレラ、完全に目がすわっています。何人も殺したのでキレたようです。
でもお姉さん達もキレてるみたいで・・・
「そうそう、王家にしたら元気で長生きな後継ぎが必要なワケよ」
「と、なると女は多いほうがいい」
「んじゃあそれだけの女の相手をできない国王は用済みってことよネ」
言い終わるのと3人が国王に剣を突き立てるのは同時でした。
朝の光の中。武闘会の見物中に突然亡くなった国王の葬儀が華やかにとり行われています。
それを見守る幼い新国王と二人のお后。
え?シンデレラがどうしたかって。
しっかり魔法使いの装束を身にまとって横にすわっていますよ。
彼女だって身のほどは知っています。チビガリがお后になんてなったところで
国民に嫌われるに決まっています。だったら名誉なんかより実益です。
なんたって、彼女はお后達と秘密を共有しているんですから。
あれ、じゃあ魔法使いのお婆さんは・・・
秘密は知るものが少ないほど守られるものなのです・・・・
教訓
お伽噺といえども、平民の娘が王族と結婚できるかもしれないなどと
子供達に本気で思われては困るのでストーリには気をつけましょう。
平民には平民の幸せを・・・(笑)っていいのかぁ
あの〜
地球温暖化で生態系が、南極と北極の氷が・・・・・・
溶けて流れて〜そ〜して〜
今の平野は無くなるのです〜
山に住もうよ〜でも、南極は陸地が有るけど、あちきの住む北極は陸地が無い
どうする??
今は良いけど、子供、孫、曾孫達の生きるところが有るのかな〜
だいぶ路線から外れているようですが
今では顔もおぼろげな
あの人がよみがえるバスの中
つり革に手をかけて
体をバスにあずけてみるの
張り詰めた糸もふとゆるみ
昔の恋を思い出す
遠い日々 これ以上遠くなる事もなく・・・
あの頃は、よくわかってなかった唄の意味
今この年になって
心に染みとおってきます。
いい歌って
何十年たってもいい歌
昔々、あるところにとっても気の弱い魔法の鏡がおりました・・・
とあるお城の奥の鏡の間
「まぃったなあ・・またそろそろここの女王様が来はる頃や・・
そんで『鏡や鏡。世界でいちばん美しいのは誰だい?』って聞きはるねん。
そんなもんなんべん聞かれたってアンタとちゃうって事は間違いないんやから
聞かんでもええのに、ホンマしつこいヒトやで。また、ワシもウソ言えんしなあ・・・
死んだ祖母ちゃんがウソはついたらあかん。そんな事したら人間並の最低なヤツやって
言うてはったしなぁ。だいたいウソつくような魔法の鏡は、海の向こうの島の
エドーとかってところにほられて、遊び女の所でろくに磨いてももらえンで
朽ち果てるまで使われるって事やしな・・・あ、女王様がきはったワ」
「おおー、魔法の鏡よ。今日もいちだんと輝いているネ。さて、
鏡や鏡。世界でいちばん美しいのは誰だい?」
「来たぁ!!やっぱ聞いてきたかぁ・・・聞く思っててん・・たまには休めばいいのに
律義なオバハンやで・・・さて、どないしょう・・」
「どうしたんだい?鏡や。世界でいちばん美しいのは誰だい?」
「えー、女王様に申し上げます。
本日は夜半より雪になる模様で、明朝には1面の銀世界がみられるのではと・・」
「・・・なんだって??」
「今日のラッキーカラーは赤。ラッキーアイテムは柳刃包丁」
「・・・おや・・・鏡やぁー・・身体の加減でも悪いのかい・・・」
「あー、アカンっ!!女王様ハンマー持っとるっ!!・・こらちゃんと答えな
割られてまうがなっ!」
「あ、スンマセン!ちょっと寝ぼけてましたぁ。えっと、何でしたかいな?」
「鏡や鏡・・・世界でいちばん美しいのは誰だいっ!!!?」
「うあわぁ、ハンマー振り上げとるやないかぁ・・こまったなぁ・・・
えー、女王様。この城でいちばんお美しいのはもちろん女王様ですー」
「おおー、そうかい」
「しかしながら、世界となりますと白雪姫さんが・・・」
「なにぃーっ!!また白雪姫っ!!」
と、言うがはやく、この女王様、白雪姫の肖像画を懐から出して床にたたきつけ、
靴で踏みつけ針を突き立て、あげくにコロモをつけて天ぷらにしてしまいました。
「あかん・・オバハン切れとぉ・・・
散々無茶苦茶やったあげく、女王様は鏡の前に戻ってきて言いました。
「鏡やぁ」
「はっ、はいですーっ!!」
「白雪姫さえいなくなれば私が1番かい?」
「あいたぁ!!えらいこと聞いてきよるでこのオバハン。『この城でいちばん美しい』
って、あたり前やんか。ここの城にはアンタしかオナゴはんはおらんねんから。
他のオナゴシはみーんな、アンタがいちゃもんつけてヒマだしたり、
殺してもたりしたんやねんから・・また王様も王様やで、婿養子やからなんも言えんし。
さてどないしょう・・・」
この魔法の鏡。出来はいいんですがホンマ気が弱いんですな。で、「ごまかして・・」
っちゅうのも出来ないたちでして・・かといってここはうまく言い逃れないと、
さっきの肖像画みたいな目に合うのはわかってますし・・・
「あ・・とにかく白雪姫をどうにかしまひょぅいな。せやないとどもこもなりまへんで」
「それもそうだね」
「いやいや胸をなで下ろしたで。もっともどこが胸なのかワシにもわからへんけど。
とにかくこれで一安心や」
「で、鏡や。どうやって白雪姫を消そうかねぇ・・・」
「消すってあぁた・・・このオバハン鬼畜やなぁ。『どうにかする』言うたら
殺すこととしか思ぅとらんで・・・」
「えっとぉ、何かいいものは無いかねぇ。『飲んだら泡になって消えてしまう毒薬』
あー、これは生意気な人魚国の王女に使ったからねぇ。
これは失敗だったよ。泡になっちまったんで食えなかったしね」
「おいおい、いくら半分魚や言うても食うなよオバハン・・・」
「呪いはどうですのん?」
「イバラ城のガキに使ったやつかい。あれは面倒がなくっていいんだけど、
眠り続けるだけで死なないからねぇ。面白味が足りないよ」
「面白味って・・・人殺すのがええんかい・・まったく恐ろしいオバハンやで」
「なにか言ったかい?」
「いえいえ、えっと・・ほしたらカラクリでどっか遠くの国に飛ばすとか」
「この前カグヤの娘を月まで飛ばしたらオーバーワークで壊れちまったよ」
「なんでもやっとるやっちゃぁなぁ。ホンマ自分の為には手段を選ばん鬼畜やで・・」
「では毒でもどないですか?白雪姫は小人の七人兄弟の家の居候をしていて
ロクにええもんも食べてませんから、リンゴにでも毒を盛って、
『産地直売リンゴの試食販売』とかってノボリを立てた軽トラで乗りつけたら
試食リンゴだけタダで食って帰ろ思て出てきよりまっせ」
「ふむふむ」
「女王様の見てはる前で、白雪姫が毒リンゴ食らって苦しみながら死んでゆく。
鬼畜冥利につきまっせ」
「おお、それは気分いいねー。・・・ところで・・誰が鬼畜なんだいっ!!」
「げっ・・・いやいやだれがそんなことを・・・なんちゅうツッコミや、
このオバハン人間ちゃうで・・」
「で、鏡やその毒リンゴとはどうやって作るんだい?」
「はいはい、おまかせ下さい。毒リンゴのレシピはここに」
よい子の皆さんの中にもなにかの機会に毒リンゴを作ってみたいと思われる方もいますよね。
では鏡さんが映し出した毒リンゴのレシピを書いてあげましょう。
用意するもの
・リンゴを5、6個・・・
美味しそうなのを選びましょう。
・ネギ1本
・タマネギ半分
・砂糖大サジ五杯
・醤油小サジ三杯
・チョコレート150g
毒の作リ方
・ネギを細かく切ります
・切り刻んだネギにすりおろしたタマネギを加えます。
・砂糖を加え、乳鉢でペースト状になるまで丁寧につぶします。
・チョコレートを湯せんで溶かします。
・先ほど作ったペーストと醤油をチョコレートに混ぜあわせます。
リンゴに毒を塗る
・リンゴのまわりに出来た作った毒をきれいに塗ります。
・かわいたらその上からきれいなトッピングをちらして毒リンゴの完成!!
「あのー・・これって・・」はい、よい子は詮索などしてはダメっ!!
さてさて、そんなこんなで毒リンゴを作ったオバハン・・違った女王様。
意気揚々と森の中の小人達の家にやってまいります。
「困ったねぇ・・・さっきスッ転んだときにリンゴをぶちまけちまったからどれが
毒リンゴだかわからなくなっちゃったよ。どうするかねぇ・・」
このオバハン、アホで鬼畜の上に鈍くさいようです・
家の前にやってきた女王様。
「ピンポーン!!」
「どなたぁ?」
「怪しいものですー」
「どうぞお入りー」
白雪姫もこのオバハンに負けず劣らずのアホでんな・・・
「あら、オバサマ。何かご用ですの」
「リンゴ食わんかいっ!・・・」
「え?・・・」
「えぇいっ、四の五の言わずリンゴ食わんかいっ!!!!」
女王様、完全に目がイってます。毒リンゴがわからなくなった焦りでノーミソが
猪突猛進体育会系モードになったもんとおもわれますナ。
白雪姫を押さえつけて持参のリンゴを全部口の中に突っ込んでしまいました。
毒にあたったのか、食べ過ぎなのかはわかりませんが
あわれ白雪姫は悶絶・・・てっか窒息ですな・・・
女王様は意気揚々引きあげて行きました。
と、そこに仕事を終えた小人達が唄を唄いながら帰ってきました。
♪燦たり輝くーっ ハーケンクロイツぅーっ♪
なんかヤバそうなお唄ですネ。でもこの唄は有名な北原白秋サンの作詞なんですよー。
よい子の皆さんも覚えて唄ってみましょうね。
♪ばんざーいっ ヒットラーっ ユーゲーントっ
ばんざーいっ ナっチっスーっ♪
ちょうど唄い終わったところでお家に到着したようです。
「今帰ったぞぉー。 メシだ風呂だぁ」
「ええいっ、肩を揉めぇ、足を揉めぇー」
「この服を繕っておけ」
「靴を磨いておくれ」
「女王様とお呼び」
「総統っ!私は歩けます」
「かぁさんや メシはまだかね」
まあまあ。にぎやかな事ですなぁ・・・
さて、小人達がお家の扉を開くとなんと言う事でしょう。
白雪姫が倒れているではありませんか。
小人達はびっくりぎょうてん。みんな心の中で「もしかしたらあの事が・・」
と原因を思い浮かべます・・・
<やっぱり卵、腐っていたのね・・>
<あのキノコ・・食べないでよかった・・>
<そっかあ、あそこの泉の水は飲めないか・・>
<僕のタランチュラ・・居ないと思ったら・・>
<わぁ、藁人形の呪いって効くんだ・・>
<えぇいっ!信心が足りんっ!>
<かぁさんや メシはまだかね>
こいつらも女王様に負けないくらいの鬼畜です。
「しかしどうする?この死体」
「あ、俺死体も好きだぞ」
「お前なぁ、よい子のみんなに説明できないような発現をするなってば」
「食っちまおうゼ」
「食うにしたって一度には食えないだろ、どこに置くんだ」
「あ、あるある。この前寿司屋に取り立てに行った時に奪ってきたやつ」
「かぁさんや メシはまだかね」
と、1人の小人が、寿司屋のカウンターにあるネタ用の冷蔵庫を取り出しました。
はーいっ、よい子のみんなはお寿司屋さんのカウンターのネタ用の冷蔵庫って判るかな。
え゛?、いつも行くお寿司屋さんにそんなものは無いって・・・
お寿司はグルグルまわってくるもんだって・・・
ふふっ・・・ビンボー人のガキめっ!!
いやいや、口がすべっちゃったな(笑)
そう、お寿司屋さんによってはカウンターにガラス張りのでっかい冷蔵庫が乗っかってる
お店もあるんだよ。お父さんに聞いてごらん。
お父さんはお母さん以外のきれいなおばさんとよく行ってるはずだからネ。
と、言う事で白雪姫はガラスのでっかい冷蔵庫の中の、千切りダイコンやワカメを敷いた
上に横たわり、静かに料理されるのを待つことになりました。
と、そこに現れたのは旅の白馬の王子様
・・・それじゃ馬だって?
いや、馬なんです。
え゛?馬じゃまずいだろうって?
そんな、偏見持っちゃあいけませんよ。馬だって王子様なんだから。
なになに、「動物と人は教育上よくない」って・・・
まったくうるさいなぁ。んじゃあ人でもいいですよブツブツ・・
と、そこに現れたのは旅の王子の白馬様
小人達が家の前に看板を出した「新ネタ入荷」につられてやって来ました。
「ほほぅ、こらまたべっぴさんなこっちゃなぁ。こないに可愛いのに死んでもうて
もったいない事な・・・え・・食う・・そんなことしたらもったいないがな。
これだけのべっぴんさん、死んでもうててても充分見栄えがある。わかった。
ワシがこのべっぴんさんを冷蔵庫ごと買い取りまひょ」
「いや、気前のいい事はありがたいんですが、美人とは言いましても死体ですよ。
いったいどうするおつもりで?」
「いやな、いっぺんこういう美人さんでカンカンノウがやりたかったんや」
「カンカンノウって・・あんた・・」
いかんなぁ、この話まともな連中が出てきません。
早速、王子の白馬様は白雪姫の死体を抱きかかえて♪カンカンノーツーレンソ♪
と踊りだし、小人達も行きがかり上仕方なく、鉦を叩き、太鼓を鳴らし、
蛇踊りの棒を振り回してやけっぱちで踊り始めました。
と、そのとき、振り回された勢いで白雪姫の喉に詰まっていたリンゴがポロリと取れ、
白雪姫は息を吹き返したのです。
「げっ、生きてる!!」
「うわぁ、生きていたんだ」
「おいっ、と言う事は2日もたってるぞ」
「や、ヤバいっ!」
「うわぁ、目がすわってるー」
「とにかく逃げろ」
「かぁさんや メシはまだかね」
どうしたわけか小人達は一目散に家から飛び出してゆきます。
「なんやなんやどないしたっちゅうねん?おや、このじょうちゃん生きとるやないか。
ならまためでたいこっちゃ。おぅおぅきれいな目ぇしてからに・・
どないや、わかるかぁ?」
「腹へった・・・」
「え゛??・・・」
「腹へった・・・食わせろっ!!」
「食わせろっていったい・・・あ、何をするんやぁー」
家の外では小人達が物陰に隠れ、息をこらして中の様子をうかがっています。
家からは何度か王子の白馬様の絶叫が聞こえ、やがて静かになると今度は
ポリポリ、バキバキと何かを噛み砕くような音が聞こえ、やがて静かになりました。
「やれやれ、腹が一杯になったらしいな」
「まったく、足らないって飛び出してきたらどうしようかとおもったぜ」
「美人だし、かわいいし、家事はできる、料理は美味いと言う事なしの娘なんだがなぁ」
「腹が減ると文字通り人が変わっちまうからな」
「いやいや、しかしあの王子様のおかげで3日分は助かったな」
「そうそう、この森も悪い噂が立って人がなかなか寄り付かなくなったからなぁ」
「かぁさんや メシはまだかね」
さて、お城では気の弱い魔法の鏡がオロオロとしています。
「あかんがなあかんがな、白雪姫息をふきかえしよったがな。この事を耳にしたら
また女王様が大騒ぎしはるに決まってる。どないしょぅ」
「おおー、魔法の鏡よ。今日も輝いているネ。おや、どうしたいガタガタと震えて?」
「女王様に申し上げます。すみませんっ!、白雪姫が生きてました」
「あぁ、聞いたよ。森の小人達の家で騒ぎがあったんだってネ。どうやら白雪姫は
オツムがだめで、お腹が空くと人を襲うんだってね」
「は、はいそのようで・・・」
「いくら美人だからってもね。そんな脳に障害がある娘なんてアタシの敵じゃあないよ
だから、あの娘の事はいいよ。と、なると実質敵には私が1番って事だネ」
「は、はぁ・・・勝手な解釈しとるやっちゃなぁ・・・」
「ただ心配なのは白雪姫のオツムが治っちまったら困るよねー」
「あ、女王様。それはありません。白雪姫の脳炎は不治の病です」
「おや、自信ありげだね。なにか理由でもあるのかい?」
「はい、昔から 不治の白雪ゃノーエン と申します」
人生っ、てーか「命」ってのを語られているので、1番多い表現に
「人生は道で、その目的は死」ってのがありますネ。
で、たいていは講釈として「大事なのは、目的に至る過程である」なーんて解いちゃって。
でね、そんなごもっともなことはいいとして、
「んじゃあさ、道なんだから時々道草をしたっていいワケじゃんか」
と、タダをこねてみたくなるのがネコ科の生き物です(笑)
国語辞典を開いてみると、
「道草とは、本来の目的からはずれて横道にそれ、無駄な時間をつぶす事」だそうです。
ををっ、それじゃあちょっとくらい遊んだって道草にはなっていないぞー。
なんたって目的には確実に向かっていってんだから(笑)
ん?こんなのもあるにゃ
「ある場所に向かう途中で、他の事をして時間をつぶす様子」
ををっ、こっちはやってそうだ!!
さすが明解国語辞典。隠し球を用意していたな<(違うと思う)
さてと、んじゃあ道草。
こいつを気ぃいれてやろうとすると意外に難しい事に気がつきます。
生の目的とは全然違う事で時間をつぶさなくてはならないワケですから、
食べることと寝ることはダメです。
着ることも病気にならないため、住むことも獣に襲われないためでしょ。
リクレーションや語らいのたぐいだって心を長生きさせる為だし、
環境を気にするのだって、街の命のためだし、
ニャンコにひっかかれるのだって、ニャンコの気分転換だし、
日なたぼっこも、鳥と遊ぶのも
みんなみんな目的に向かっていますよネ。
うーみゅ、子供の頃ってどうやって道草をしていたんだろ?
っって、考えてみるとお仕事や家事の時間って、1番道草なのかもしれませんネ。
そっかぁ、だから道草が出来ないんだ(笑)
<ひとつ・・・幽霊・・・>
「幽霊が出た」
「・・・幽霊?・・・湧いたのか?」
「まぁ、それは大変ですわ。あれは1匹出るとその30倍は隠れていると・・」
「まったく、だからいったろ、食べ残したものには蚊帳帳をするか水屋にいれろって。
ちょうどいい、京惚れが送ってきた除虫菊の水薬とかって新式のものがあるから
これでもまいとけ」
「あー、おまえら全然相手にしていないなっ!!。ボッカブリじゃねぇ。幽霊だ!」
「相手にってなぁ、今がいつかわかってんのか。師走だぞ師走。
こんな暮も押し迫った時期になにが幽霊だよ」
「そうですわ、それに南蛮からカラクリや舎密の学問が入って来ているこのご時世に
幽霊もないでしょうに」
「なにをいう、幽霊に季節も蘭学も関係ないだろうが、出たものは出たんだ」
「で、何かい、浴衣1枚じゃ寒いから丹前でも着込んでいたのか」
「このやろ、馬鹿にしやがって、まぁ、聞けってば」
・・・外郎騒ぎの礼をたんまりといただいたので、せっかくだから謙之助の家で
忘年会でもやろうと言う事になった年の瀬。なにやら依頼事で3日ほど
京を離れていた諸之進が青い顔をして現れたのは忘年会の前日だった・・・
「いやな、この3日ほど俺はちょいとした頼まれ事で大坂に行っていたんだ」
「まぁ、どおりで京の町が静かだと思っていましたわ」
「うっるさいっ!!でだ、頼まれ事ってのは阿倍野の清明神社だ」
「あぁ、陰陽道の本山だな。また妙な所の仕事を拾ってきたな」
「いや、せんだっての阿片外郎騒ぎの時、上賀茂の元禰宜のカシラが酔っちまって
あらえっさっさになっちまったじゃねぇか。そんときに円斎センセとおれで
六角堂まで行って事の次第を弁明して、あの緞帳かつぎのダンナはお咎めなしって
事になったろ。ま、その時の縁でちょいと仕事を頼まれたったわけだ」
「まあ、あのお手柄ってほとんどリーちゃんのお手柄じゃないの。
なにさ1人でお仕事もらっちゃって。ひどいわね」
「ひどいって、おまえら先週俺に3日もそのタンパク質の世話押し付けて留守番させて
円斎センセと九条まで内国勧業博覧会に行っちまってたじゃねえか。
そこにあのカシラが頼みごとにきたもんだから仕方ねぇだろ」
「ああ、そういえば俺達が帰ってくるのと入れ替わりにすっとんで出て行ったっけ」
「で、それでお仕事ってのはなんだったの?」
「阿倍野の清明神社に安部清明の幽霊が出るから退治をしてくれってんだ」
「安部清明の幽霊ーっ!?」
<ふたつ・・・でもって・・・>
「安部清明ってのは、おまえらも知ってる通り、ちょいと昔の陰陽師の親分だ、
で、そいつを祭っているのが阿倍野の清明神社なんだが・・・」
「そんなことはガキでも知ってるよ。舎密の学者なんざぁ新しい試しをするときは、
鬼門に例の星のお札を貼ってからすることにしてるってくらいのけっこうな信仰だ」
「そうそう、一条戻橋にも京の清明神社がありますわネ」
「その一条戻橋の禰宜が今回の依頼人だ。なんでもこいつ、せんだって
阿倍野の清明神社に新年の祭礼の打ち合わせのために行ったそうだ。
さて、打ち合わせを終えて、祭礼殿の隣に寝所をしつらえてもらって案内され、
まだ寝るにはちょいと早いので枕机に灯火をさして漢詩だかなんだかを読んでいたそうな。
するってーと、風も無いのに燭台の火が揺らめいた。」
「ふむ」
「おやと思って振り返ったが人の気配は無い。気を取り直してまた書に目を落とすと、
今度は大きく火が揺らいだかってーと祭礼殿のほうで何者かが動くような音がする。
なんだと思って襖を開いたら驚いた」
「なに、アンコウでも居たの?」
「そう、闇の中でチョウチンアンコウが月琴をかき鳴らしながらホーイホーイと
・・・ちがうっ!!出たんだよ」
「出たって」
「萌葱色目の狩衣に漆黒の冠をいただいた陰陽師の幽霊が、
半分透き通った姿で祭礼の太鼓の前に浮いていたそうだ」
「それで」
「陰陽師はこちらに気づく様子も無く、呪を唱えながら祭礼殿の中を兎歩でまわり
もとの太鼓の前に来ると印を結んでかき消すように消えた」
「うーむ」
「どうだい、不思議な話だろう」
「確かに不思議だ」
「あら、謙之助様。こんなお話を信じなさるの」
「いや、不思議なのは
なんで中に浮かんで足の無いはずの幽霊が兎歩で歩いてると判ったかだ」
「おまぃなぁ。そういう突っ込みを考えている場合か」
「で、その禰宜はどうしたんだ」
「腰をぬかして母屋に駆け込んで事の次第を話したが、とりあってもらえねぇ。
それてどころか一条戻橋が阿倍野に因縁をつけるつもりかとまで言われ、
とりつく島もなく帰ったそうだ」
「うーん、祀る方は同じとは言え、京と大坂は因縁があるからなぁ・・・
ましてや安倍晴明どのは京にて名をなされたお方だ。阿倍野にしてみれば
一条戻橋が因縁をつけに来たように思うだろう」
「しかし、納まらないのは一条の禰宜だ。あれはまぎれもなく安倍晴明どのの幽霊だから
誰か代わりに確かめてきて欲しいと・・」
「で、緞帳かつぎの五位殿がこちらに頼みに来た」
「ってワケだ」
<みっつ・・・ご依頼・・・>
「しかし、お前さん怪談話を聞いたら雪隠にも行けないくらいに幽霊が苦手じゃねぇか」
「ああ、幽霊と椎茸だけはどうしても食えねえ」
「いや、なにも幽霊を食えとは言わねぇけど、そんなんでどうするんだよ」
「どうすんだって、俺もこの話を聞き込んだときは本物の幽霊だなんて思わなかったよ。
どうせカラクリかなんかに違いねえからって、たかをくくってたんだ。
お前さん達の言うとおり、このご時世に幽霊なんていねぇ。いや、このご時世だから
幽霊のひとつぐらいカラクリや舎密の技でなんとかなるだろう。と、言う事は
そのカラクリを動かしている奴が幽霊の側にいるはずだ、そいつをとっつかまえれば
この幽霊騒ぎは一件落着だ」
「ほほぅ、考えたじゃねぇか」
「そこでだ、この前京惚れが送ってきた薬煙玉があったろ。あれを持っていった」
「あ、お前また勝手に道具箱の中のものを持っていったな。ありゃ町娘の護身用に
売り込もうとかって京惚れが送ってきた唐辛子の煙玉だぞ」
「あら、そんないいものがあるんですか?わたしも欲しいです」
「いや、思いつきは良かったみたいなんですがネ。京惚れの奴どれほど仕込んだのか
火がついたら最後、まわり1町四方に唐辛子や胡椒の煙が広がり、
涙はでるわ咳きはでるわ、護身どころが本人までやられちまうって
とんでもない煙玉なんです。奴が地元で試しをしたときにゃあ。
江戸の町中が大騒ぎになったって事ですよ」
「ま、そんなぶっそうなものよく送ってきましたね」
「奴の性根です。試しをする前にこっちに送りつけてきて、試しをしてから大慌てで
使うなって手紙をよこしてきましたよ」
「え、そんな物騒なもんだったのか・・どうりで」
「どうりでって諸之進、お前さん使ったわけぇ?、
まったく困った野郎だな。それでどうだったんだ?」
「いやな、一昨日の夜に阿倍野に着いて、
さっそく向こうの禰宜と一緒にその寝所とやらにこもった。
ところがその日の夜はからぶりだ、で、昨日の夜の事だ。
夜になったら雨が降り出して、ヤな雰囲気だなと思っていたら、
子の刻にさしかかろうって頃か祭礼殿でなにやら気配がした」
「出たのか」
「出たねぇ。うっすらとモヤのかかった祭礼殿の床から一尺ばかり宙に浮いて、
狩衣姿の男の姿がゆらゆらと。
確かにありゃ安部清明だぜ。で、おりゃなんかの
カラクリであって欲しいって思って。京惚れの薬煙玉に火をつけた」
「無茶やるやつだなあ。閉め切ったところであんなもんに火をつけたら、大騒ぎだ」
「ああ、白い煙が出たかとおもったらもう目が開かないどころか息もできねぇ。
周りの禰宜達も咳き込んだり泣いたりの大騒ぎだ。」
「それで?」
「半時ばかりして、煙が晴れたがなにもみあたらねぇ。
ところが今度は阿倍野神社の禰宜もしっかりと幽霊を見たわけだ。
禰宜元も顔色を変えてなんとか始末をしてくれと・・・」
「依頼を受けてきたワケだ」
「いや、受けねえなら薬煙玉の被害をなんとかしろと・・・」
「あのなぁ。どうしてお前さんはそういう始末の悪い仕事ばっか拾って来るんだよ。
俺だってお前さん程じゃあねぇが、幽霊は食い合わせだ」
<よっつ・・・でもって・・・>
「さて、やってきたはいいがどうする?」
「どうするもこうするもとにかくその幽霊とやらを拝むしかないわな。
子の刻にはまだ二時もある。とりあえず1杯やって・・」
「あ、なんだそりゃ?錫の瓶子なんぞ出しやがって、酒を持参かよ」
「あぁ、ヒマつぶしにゃあ呑むにかぎるぜ」
「て、まさかそれお前さんの好きな松脂酒かよ」
「当然だ、要らねえならやらんぜ」
「いらねえなんて言ってねぇだろう。そんな独りで呑むなってば」
さてさて、夜も更けてまいりました。街中とは言え広大な神社の祭礼殿。
あたりは闇につつまれて空気は真綿で包まれたように静まりかえり・・・
「なんかうすら気持ちが悪い夜だなぁ」
「それに街中ってーのになんて静けさだ。おい、諸之進。お前さんよくもまぁ
こんなところで幽霊見物なんてできたな」
「いや、前回はここの神社の禰宜たちがたくさんいたから、わいわいやっていて
大丈夫だったんだが、今回は誰一人として来たがらねぇ」
「まぁ、見ちまったんだもんな、ん?、おいっ、なんか内庭の方で物音がしないか?」
「え?・・た、確かになんやら気配がする・・」
「コンコン・・・」
「なんだよ、コンコンって、驚かせるなってば」
「え、俺じゃねえよ」
「コンコンコン・・」
「な、なんだコンコンコンって・・障子のところから」
「けーんのーすーけーさーまぁー」
「うぎゃあっ!でたぁっ!!」
「おい、まてっ諸之進っ、幽霊じゃねぇよ。おサキ殿だ」
「え・・・ってなんだよこんな夜更けに。びっくりするじゃねぇか」
「まぁ、失礼な。幽霊嫌いのお二人じゃあどうにもならないと思って、
お店の片付けを終えてからわざわざ来て上げたのに」
「いやそのお手伝いはありがたいが、おサキ殿は幽霊は平気なのか」
「平気もクソもこのご時世に幽霊なんていませんてば、なにかのカラクリか舎密の
技にきまってるじゃありませんか」
「いや、そう言われても・・・」
「とにかく、こんな丸窓から幻燈のぞきみたいな事してると寒いですー。
中に入れてくださいませ」
と、いつものメンバーも揃い、いよいよ子の刻が近づいた頃・・・
<いつつ・・・出たぁ!・・・>
「でっ、出たぁ!」
「あー、諸之進っ、俺の後ろに隠れるんじゃねぇっ!!わーっわーっ!こっち向いたぁ」
「あ、謙之助っ俺を前に出すなってばっ、その帯から手を離せってば、
げっ、こっちに歩いてくるーっ!」
「ダメだってば引っ張るなよー。そ、そうだ死んだふりをしていればやり過ごせるかも」
「おまぃ何考えてんだっ!相手は幽霊だぞっ!死人なんてお友達じゃねぇかよー」
「・・・あーっ、ウルサイわねぇ。まったくいい男が二人も揃ってなにガタガタと
騒いでるんですかっ!よくごらんになって下さい。あの幽霊なんか変ですわ」
「変って、変じゃない幽霊がいるわきゃあないって・・確かに同じ所をグルグルと・・・」
「でしょ。それにこれだけ騒いでいるのに私たちに気が付く風もないし、
まるで幻燈芝居が動いているような・・・」
「うん、確かに生気の無い幽霊だ」
「生気が無いって、生気があったら幽霊じゃあねぇだろうが」
「いや、そういうんじゃなくってまるで人形のような・・・」
意を決して謙之助が祭礼殿に飛び込み、刀を鞘ごと抜いて幽霊に突きかかると、
幽霊は何も無いかのようにすっと刀をすり抜けて通り過ぎ、
太鼓の前に差し掛かるとすっとかき消すように消えてしまった。
「消えたな・・・」
「あぁ、消えた」
「ありゃぁなんだい。いったい?」
「うーむ、どうも幽霊という風情じゃあなさそうだ」
「しかし、この祭礼殿に人の気配なんてのはないぜ」
「幽霊ではない、かといってカラクリにしちゃあ操る奴がいない・・
だれも居ないのに決まったようにカラクリが動く・・」
そうこうするうちに夜も明けてきて、祭礼殿には朝の陽光がまぶしく差し込んできた
「なんだ、祭礼殿の床がキラキラと光ってるじゃあねぇか」
「あらほんと、ワラビ粉をまいたような」
「なんだ・・・げっ苦いっ!」
「お前さんなぁ、いきなり舐めるなよ。毒ものだったらどうすんだ」
「大丈夫ですわ、諸之進様でしたら毒ものをいただこうがアタマの半分も潰されようが
元気にカサコソと動いておられますって」
「そうそう、元気だけがとりえ・・・っってー、俺はボッカブリじゃねぇってーの!」
「この粉・・・」
「謙之助様、なにかお心あたりでも?」
「うーむ、このカラクリ、どこかで聞いたような・・・。
おサキ殿。ちょいと出かけてきますので諸之進とこの祭礼殿をそのままに
しておいて下さい。夜には戻りますから」
「あら、どちらへ?」
「木屋町二条西詰」
「木屋町二条西詰・・・舎密局ですか?」
「なんだいその舎密局ってのは?」
「せんだって大坂から移ってきた舎密の役場ですわ。ギヤマン細工に使う珪砂曹達を
分けていただきに行くので知ってるんですが・・謙之助様いったいなんの御用で??」
<むっつ・・・助っ人・・・>
「いやいや、待たせたな。諸之進、安部清明の幽霊の正体。あらかたわかったぜ」
「そちらの御仁達は何なんだ?」
「ああ、京の舎密局でその人ありと言われた島津十文字源五郎さんだ。
こちらはその1番弟子だそうだ」
「舎密局の技師さんなんぞ呼んできて、いったいどうすんだよ」
「幽霊退治だよ」
「はいなー、謙之助サンからお話は聞かせてもらいましたぁ。
堀川魚棚筋の島津十文字っちゅう仏具屋の源五郎と申します、
縁あって今は舎密局で禄もろて学問をさせてもらっとります。
いやいや今回はほんまおもろいお話しで、飛びつかしてもらいましたわ。
その幽霊退治とやら、あんじょうお力にならせてもらいますぅ」
「なんか大丈夫かよぉ、このダンナ。とても舎密局の技師様にゃあみえねぇぞ」
「あー、そんでもってこちらのもったりしたのがうちの若い者で田中はんって言います。
伊達藩からお勉強に来てはんねんけど、ほんにまぁ口下手のあかんたれでしてな、
学問の事以外なんも知りはらへん。ほら、田中はん。挨拶しぃ」
「舎密局の技師見習の田中彼方耕田と申します。以後お見知りおきを」
「はぁ、たなかかなたサンですか。こっちはこっちでまた静かというか暗いっつーか・・」
「で、昨晩おはんらがご覧になった安部清明サンの幽霊ですが、間違いのう舎密の技ですな
それもこんだけの大技が操れるとなるとはぁ、下手人に察しはつきます」
「察しがつくって?」
「はいな、そんだけの事ができはるとしたら、先の大坂舎密局の技師。
御室カラクリ堂の春待小女子」
「おむろのはるまちのこうなご?」
「へぇ、おなごはんながらに長崎の和蘭屋敷に奉公にではって、
そこの主人の胡瓜夫妻から最新の南蛮舎密の手ほどきを受けた女丈夫はんです。
けど頭はよろしいんですが気ぃがいかん。
大坂舎密局に入ったンはええけど、あっちにぶつかりこっちにちょっかいだし、
挙句の果てに舎密局で作った体温計を持ち出して小商売をしようとしたのがバレて、
舎密局が京に移るときにおヒマをださはられまして」
「えれえ女だなぁ」
「はいな、気ぃはでかいわ、声はでかいわ、態度はでかいわ。小さいのは身体だけって
とんでもないお方ですぅ。そんでな、舎密局が移った後も大坂に残って佐倉藩の加護で
舎密を続けているって事を聞いてましてんけど」
「佐倉藩って。昨年砲台作るとかって海っパタの東照権現宮の鳥居をひっこ抜いた
って大騒ぎになった凶状持ちの藩じゃねぇか。またえれぇところと組んだなぁ」
「いや、あぁた、せやから舎密屋が必要ですねん。あの騒ぎで砲台を作ったはいいけど
関わりあいを恐れてどこの渡来物問屋も煙硝や弾を売りたがらん。おかげで砲台は
都鳥が巣をはってるありさまだそうですわ。それで弾はまぁ鍛冶屋でも呼べはなんとか
でっち上げれるとしても、問題は煙硝ですな。大砲の弾となるとまさか飛騨煙硝などじゃ
どうもこもならん。下瀬式の黄色化薬を調合できる技師がどうしても要ったわけです」
<ななつ・・・舎密局・・・>
「そんでそのチリメンじゃこが怪しいとしてもだ、どうやってあげるんだ?」
「じゃことちゃいます。小女子。まぁ、揚げるとしますとやはり釜揚げ・・
と冗談はおいといて、そうですなぁ、
あの方、表向きは大坂舎密局で完成させた「依剥加良私酒」の製造所をまかされてます
から、真っ向問いただしても何もでまへんな」
「げっ、いほからすっ!」
「あら、なんですのその変な名前のお酒は?」
「北蛮の連中が飲む麦を使った酒だ。ぶつぶつと泡が入っていて草のように甘臭い」
「なんだ諸之進、お前さん依剥加良私苦手かよ。俺は好きだぜ。
暑いときなんざ井戸で冷やしたやつをぐっと呑むとたまらん。
確か京の舎密局でも九条の麒麟堂の倉で依剥加良私を造り始めるって聞いたが」
「さいです。壱肆玖漆って言いまして、まことに美味しいお酒です」
「俺は愛飲の南蛮酒でいいよ。あぁいうにちゃにちゃした酒は嫌いだ」
「玉蜀黍の酒かぁ。まずくはないが匂いがなぁ」
「あの匂いがいいんだよ。だいたい匂いならお前の飲んでる松脂酒の方が臭いぞ」
「なにを言う。あれこそ芳醇な香りってんだ。まったくシロートはヤだね」
「・・・・」
「・・・アホはほっておいてお話を進めましょう。そうすると、どうやって捕まえるのですの」
「ここは清明神社に網を張って、現行犯で挙げるしかおへんな」
「しかし、そのいかなごのくぎ煮さんはなんで幽霊騒ぎになんて手を貸されたのでしょうね」
「小女子ですって。・・・
いや、私が思うにはですな阿倍野の清明神社になにか人払いをして、手に入れたい
ものがあるのではないかと」
「手に入れたいもの?」
「そう、晴明神社は我々舎密を志すものにとっては聖地ですからなぁ。
もしや錬金の術の指南書でも残っていたりしたら」
その間も二人は
「古い野郎だなぁ。俺なんてこの前四条橋詰の矢尾政で里没那垤も飲んできたんだぜ」
「れもなーで・・。うげぇ。西洋すだち汁に甘蜜を入れたやつだろ。
よくもそんな物が飲めるなぁ」
「これがギヤマンの湯飲みに入ってて藁スベを突っ込んで吸うんだ。すごいだろ」
「何が悲しゅうてそんな藁スベみたいなもので飲まゃあならん。手でもって
飲めばいいだろうが」
「お前さんは風情というものを解さんやつだなぁ。それが南蛮風ってやつだ」
「えぇぃ、すだちなんざぁ秋刀魚に絞ってれば充分だ」
・・・おーい、いいかげんにしないと漬物樽ではったおされるぞぉー
<やっつ・・・説明・・・>
「謙之助はんがお持ちになった匂いのキツイ粉ですが、あれは諳模尼亜というものですな。
正しぅ言いますと、硝酸諳模尼亜安片。舎密局では上肥えに替えることができる
新しい肥料として推奨してるもんです。それと炭酸加里が混ざっとります
たぶん祭礼殿の床をば探しましたらあと、雲母版のような破片も見つかるとおもいます」
「で、これがなんだってんだ?」
「はいな、これが定まった刻になりましたら安部清明さんの幽霊を映し出す霧の元です」
「霧の元ー?」
「さいです、この粉、水気を吸い込みますと、どんどんと冷とうなる性質のもんです。
で、それで祭礼殿の床のところにこれを仕掛けて、
床のあたりの温度がどんどん下がりますと、床から宙に向かって濃ーい霧が
立ち上ることになるカラクリです。
ただし、晴れた夜は気が乾いてますんで、冷え込んでも霧がたたんであきまへんけど」
「ははぁ、だもんで最初の夜には幽霊がでなかったんだな」
「で、霧はいいとして安倍晴明の幽霊は?」
「へえへえ、こちらにあがるまえに寝所の方を見させてもらいました。あんさんらが
幽霊をのぞき見された明かり取りの窓ですが、あれを開きますと、窓についた
ヒモが引かれて、窓の下のカラクリの発条が巻かれるようになっとりました」
「カラクリ?」
「せんだっての勧業博覧会で紹介されてましたが、かめらおぶすきゅらとかってシロモン
でしてな、丸い円盤みたいなギヤマンの板にほとがらをたくさん焼き込みまして
これを光りの前でグルグル回しますと。ほとがらが動いて見えると言う幻燈です」
「それを霧に映し出していたというわけか・・・」
「そのようですな」
「しっかし、謙之助。よくもこの粉やほとがらの事を知っていたな」
「前に蛸薬師のほとがら屋に言ったときにこれを見せてもらっていたんだ。
どこでも動くほとがらが見えるって面白いカラクリだが
見世物につかえないかって相談されてな」
「で、幽霊がカラクリだと判ったはいいがどうするんだこれから」
「ただただ驚かされっぱなしってのも癪にさわるからな、
ちょいとそのキビナゴさんとやらに、意趣返しのひとつもしないとおさまらねぇ。
島津サンもお手伝いくれるって事だしな」
「だから小女子だといぅのに・・。ま、わたいもあのお方には往生させてもらいましたから
ちと腰のひとつも抜かしていただいてもええかいなと思とります。で、手筈ですが・・」
<ここのつ・・・幽霊・・・>
その夜のこと、阿倍野の清明神社の裏から中の様子をうかがう影が三つ。
噂のシラス干しじゃなかった、御室カラクリ堂の娘、春待小少女とその手下だった。
「まったく、島津のオヤジが三硝化石炭酸の製法を隠しちまうから、
どうしても黄色火薬ができないじゃないかっ。
佐倉の殿様からは毎日のように催促の文が来るし、ほんと身の縮まる思いだよ」
「身の縮まるって、小女子様。あんたこれ以上身が縮まったら無くなっちまうんじゃ」
「スカポンタン!実際に身が縮まるワケがないだろっ!!そういう気がするほど
あたしゃ困ってるって事だよ」
「それでこの清明神社に目をつけたってワケですな」
「そうだよ、ここの祭礼殿の地下には歴代の陰陽師ゆかりのお宝が眠っている
その中に太閤様が朝鮮攻めをなさろうとしたときに用意させた火矢がある」
「そんな古い火矢がなんの役に立つので?」
「当時、火矢の威力の強め薬として、いまじゃ手に入らない
韃靼の草地に生じる自然の三硝化石炭酸を処方していたって事なんだよ。
こいつを手に入れれば佐倉の殿様に黄色火薬を
胸をはってお渡しすることができるって事だ」
「おや、小女子様胸をはるって、はるほどの胸は・・・ぶげっ!」
「あーら、こんなところに寿司桶が。気をつけて歩くんだよー」
「あの、小女子様・・・こいつ泡ふいて痙攣しとりますが・・・」
「気にしないでいいよっ、蟹なんて年中泡ふいてるけど平気だよ」
「いや、蟹といっしょにしたら可哀想な・・・」
「まったく、で、祭礼殿に誰も近づかないようにしてお宝をいただこうと
わざわざほとがらのカラクリまで仕掛けたのに、妙な便利屋が出入りしちゃって」
「しかし小女子様。いくらなんでもこの時期に幽霊仕掛けは季節はずれだと思いませんか」
「何を言うんだい。幽霊に旬もなにも無いよ。いつだって怖いものの筈なんだから」
「あたしゃ怒ったときの小女子様のほうがよっぽど怖い・・・べへっ!」
「あらま、復活してたった一言でまた泡ふいてまぁ、気の毒なお方」
「とにかく、もぅ待ってられないよ。今夜は是が非でもお宝をいただくんだからネ」
「アラホラサッサー!!」
<とお・・・??・・・>
「来たか?」
「来た様子です」
「考えたもんだな。硝酸諳模尼亜安片の粉をまいて、その上に。炭酸加里の入った氷を
置いて自分達は引きあげる。半時もすれば氷が溶けて硝酸諳模尼亜安片と反応して
霧が立ち、板敷きがきしんで物音がする。音に気がついて寝所の明かり取りの障子を
開くとほとがらのカラクリが動き出す。幽霊騒ぎで誰も近づかなくなった頃合いをみて
祭礼殿のお宝をいただくって段取りなわけだ」
「で、どうするんだ?」
「ここは派手に驚いてさしあげましょ。で、我々がここから逃げ出したら、キビナゴさん
のご一行がやってくるだろう。あとは島津さんのカラクリがどうにかしてくれる」
半時ほどして
「あれぇー、幽霊がぁ」
「あわわ、あわわ、恐ろしやぁ」
「くわばらくわばらさらばさらば」
と、棒読みの台詞を叫びながら3人は神社から飛び出した。
「いまだよっ!これで誰も居ないはずだからお宝をいただくんだ」
飛び込む小女子達
「真っ暗で何もみえませんなぁ」
「まったくご丁寧に燭台の灯りを消してから逃げ出してやんの。後から盗みに入る
人のことを考えて逃げてほしいもんですね。えっと火打ちは・・あ、こりゃどうも
・・・・・え゛っ?・・・!!!」
「どうしたんだい?」
「今暗闇から手が出てきて、火打ちを差し出したんですーっ」
「なにとぼけた事を言ってるんだい。ほら灯りをよこしなっ」
<(暗闇の中では諸之進が音もなくタコ殴りにあっていた・・・)
「しかしなんですなぁ、薄気味悪いところで」
「あったよ、これだ。こいつをばらして強め薬をいただけけば黄色火薬の完成だよ。
いやいや、地道にやっていると思いはかなうもんだねぇ」
「小女子様がおっしゃってもぜんぜん説得力がありませんぜ。ではでは中身を・・」
と、手下が火薬箱の蓋を開いたとたんだった。いきなり火花がとんだかと思うと
箱の中から黒い海綿のようなものがモコモコと湧き出してきて三人を包み込みながら
祭礼殿中に広がった。
「な、なんなんだこれはぁ???」
<とおといち・・・モコモコ・・・>
三人がモコモコにまみれて動けなくなったところに、謙之助達は灯りを灯した。
「おおー、つかまったつかまった。いゃあこの薬煙玉はすごいもんだなぁ。
床一面に広がってるじゃないか」
「な、なんだいお前達は。いきなり失礼じゃないか」
「失礼ってなぁ、お前さんたちが祭礼殿に忍び込んできんだろうが、
とっくにネタはあがっるんだぞ、このチリメンじゃこ」
「チ、チリメンじゃことはなんだ、あたしゃ春待小女子ってんだ。間違うんじゃないヨ」
「おおっ、自分から名乗ってくれるとは手間が省けたぜ。そうかぁ、あんたが
有名な佐倉藩舎密師の春待小女子さんか」
「・・・・うっ・・・」
「ほんま、あいも変わらず乗せられやすいおひとやなぁ。
いったいこんなところで何を狙ってたんや」
「あー、お前は島津のクソおやじっ!。そうか、あんたが後ろに付いていたんだな。
そうかそうか、体温計の意趣だけではなく重ね重ねアタシの邪魔をしやがって、
だいたいがお前さんが三硝化石炭酸の製法書をどこかに隠しちまうからここに来る
事になったんだ。えぇいこの恨みはらさせおくもまかぁ」
「はいはい、なに歌舞伎づいてはんのん。あぁ、三硝化石炭酸
ほぉかほぉか、あんさんあれが作れんか。そらあれができんとどうにもならんなぁ
煙だらけの黒火薬で大砲は打てんしなぁ。で、それとこことどういう関係が・・
あ、まさか太閤はんの朝鮮攻めの時の火矢でも狙うたんかいな」
「そこまで見抜かれてはしょうがない、その通りだよ」
「アホかいな。あんたなぁ、タダでさえ混ざりものの多い自然の三硝化石炭酸。
二百年も経ったら分解してもて使いもんにならんやろが。なに考えてんのん」
「・・・あ゛・・・」
「まったく、思いついたらすぐにあとさき見んと行動するからすぐに粗相ばかする。
そんなこっちゃから舎密局もお暇いただくんや」
「あー、そういう事言うのっ!あれはあんたが例の体温計の事でいちゃもんを
つけてきたからじゃないか。最初は市井向きの商売は好かんとか言って
アタシに小商いを譲ったくせにサ、そこそこ売れてきたら自分も施療院
向けの体温計をやりたいとか言って」
「何をいうとんねん。あの体温計の思いつきはわしんところが最初やったんやないか
おまはんの最初言っていた耳に突っ込むなんてあぶなっかしいので売り出したら
絶対に売れへんかったぞ」
「なにを言うのさ、アンタだって最初はおいどの穴に突っ込むような恥ずかしい
やつを作っていたくせに!!」
「・・・田中さんよぉ、この二人ってなんか相当の因縁があるみたいだなぁ・・・」
「はぁ・・・島津さんも御室さんも、もともとは一緒にやってらした仲ですから・・」
黒いモコモコをはさんでえんえん悪態合戦を続ける二人だった。
<とおとに・・・やっぱり・・・>
幽霊騒ぎもなんとかかたづき、ひと落ち着きした朝。三人は阿倍野大橋のたもとの
うどん屋で朝食を取っていた。
「いやいや、なんとか年内に事が収まってよかった」
「ほんと、このまま大坂に居残って年越しになっちまうかと心配したぜ」
「ま、清明神社もこれで無事新年の祭礼ができるってもんだ」
「あぁ、朝から太鼓を出したり香炉を並べたり大騒ぎで準備をしていたぜ」
「しかし、あの田中さんの処方した薬煙玉にゃあ驚いたネ。豆炭ほどの炭玉から
五尺四方の大きさに大蛇のようなもんが飛び出すとは思わなかったぜ」
「懐中物の怪と言うらしい。なんでも火がつくとあたりの気をとりこんで膨らむって
海綿のようなものらしいが、ありゃどうにも動けネェよなぁ」
「で、チリメンじゃこはどうなるって?」
「お預かりとはいえ佐倉藩の身内だからな。奉行所も天保山送りってワケにもいくめぇ
信貴山に頼んで、しばらく尼寺に畏れ入りって始末で詮議なしにしたらしい」
「そうか、ま、舎密の法を唱えてるより読経をしている方が迷惑にゃあならんな」
「読経ならいいが呪でも唱えていたりしてね」
「ところで、薬煙玉の残りはどうした?確か麻袋に一杯あったはずだが?」
「あぁ、重いから荷物飛脚に頼んで京に持ち帰るつもりだ。
とりあえず、濡れちゃあ困るんで京惚れの唐辛子玉なんかと一緒にして
祭礼殿の隣の小屋に入れておいた」
「祭礼殿の隣の小屋?ちょっとまて、あそこは確か香を燻く為の豆炭があるところじゃ」
「あ、そういえば朝からあそこでどたばたしていたような・・」
「えぇいっ、見ていたんなら止めろこのウスラトンカチっ!
豆炭と間違って火をつけたら大事だぞ。とにかくマズイ事になる前に清明神社に戻ろう」
三人が清明神社にもどると、すでにしっかりマズイ事になっていて、
祭礼殿は黒い海綿のような物体が天井近くまで埋まり、
庭にたちこめた唐辛子の煙の中では禰宜達が泣いたり咳き込んだりの大騒ぎだった。
「・・・・・」
「ま・・・なんだなぁ、幽霊騒ぎは片付いたし」
「チリメンじゃこの始末はついたし」
「年末ですから大掃除のついでに祭礼殿もきれいにしていただければ・・・」
「えっとー、おっ!急げば午の刻の早上りの三十石船に間に合うなぁ」
「そ、そうだな。そうしたら日のあるうちに京に戻れる」
「戻ったら忘年会をしなくっちゃ」
「と、なると急ごうぜ」
大騒ぎの清明神社を後に八軒屋に向かって突っ走る三人だった。
・・・いいのかぁ・・・
「ぽっくり病」ってお聞きなったことがありますか?
正式にはブルガダ症候群といいまして、中高年男性に多い突然死症候群です。
一見元気で、胸の痛みも心筋梗塞のような心臓病もないのに、睡眠中に、
心室が細かく痙攣する心室細動が起きて血液を正常に送り出せなくなり、
意識を失って死に至ります。
で、最近このブルガダ症候群を起こす因子を発見したと言う報告が学会でありました。
中高年でこいつをくらって逝っちゃうのは大変なので、研究がもっと進んで
この因子をやっっける酵素が発見されることを願うのですが、
ふとおもったのは、この因子の研究。
はい、ご存知のように日本全国どこの地方にも、通称「ぽっくり寺」と呼ばれるお寺があって、
高齢者の方たちがいらっしゃいます。
もちろん誰だって死にたいわけではないのですが、そうもいかないとなると、最期は苦しまず、
そして見苦しくなく死にたいというのは、各世代どの時代においても、共通の願いです。
ちすは、いくつかの高齢者施設におじゃまさせていただいたことがありますが、
今の高齢者の方々は、本当に我慢強いと思います。
環境がどうこうじゃなく、医療や介護技術の発達で、ギリギリまで生きていられる。
もちろんそれが寝たきりでも意識不明でも大切なことだと思うのです。
ちすがつらいなぁと思うのはそういう意識が混沌としている方々ではなく、
逆に意識がしっかりとしていて、痛みや苦しみに耐えている方々なのです。
それでネ。自分の場合は、って考えるととっても難しいんです。
困窮の時代を知っているワケではないから我慢強いとは思えません。
そのくせ自己主張だけはしっかり身についているから介護の方に注文はつけるし、
せっかく介護されていてもそれを「介護されるようになってしまった」と、
被害者のように受け止めて、「介護していただける喜び」と受け止めることもできない。
そんなふうになっちゃうんじゃないかって・・・
「ぽっくり死ねること」
もちろん今の医学は安楽死を容認していませんし、ちすもヒトがヒトの命を操作する
などと言うことは絶対に手をつけてはいけない領域だと思います。
んじゃあ、「ぽっくり死ねることを本人が望むこと」これって許されることなのか、
許されないことなのか?
「死を望むことは自殺といっしょの事でダメです」
「安らかな死を迎えることを望むのは許されると思います」
すっごくむつかしい選択ですよね。
ブルガダ症候群を起こす因子。
この研究が進んで、
「このような環境で、こんな食生活で、こんなパターンで過ごすとこの因子は発生します」
いや、「この酵素を服用したらいざって時はポックリ逝けます」ってのが判明したら・・・。
・「医学者・生物学者は発表するだろか」
・「発表されたとして、自分はその環境を避けようとするか求めようとするか」
・「いや、悪用されるから封印すべき研究だ」
・「安楽死などとは違って選択権がみとめられるべきだ」
初めてオートハープの音に触れたのは1970年大阪万博ホールで開かれた
「戦争を知らない子供たちコンサート」・・・のハズなんだけど。
いゃあこれが全然覚えてないのです。会場で騒いでた記憶もあるし、
シングアウトでは舞台に上がらせてもらって、その写真が記念アルバムにあって・・
確かにちすの斜め後ろでオートハープをかかえた女性が写っている・・・
・・・んだけど記憶に無かったりして・・・
思えばこの頃から「気ィ入れた事以外は3歩で忘れる鳥アタマ」だったちすです。
で、その2年後の年末近くの夜、
すっかり深夜放送少年となっていたちす君はいつものようにKBSにチューニングを合わせて
ベッドに潜り込んでいたのですが、そのラジオから流れてくる音にぶっ飛びました。
「なんヤ、これ?スゴイ音しとる!!」これがちすとオートハープの
「気ィ入れた出会い」でした。
番組担当はその夏から担当となった高石友也氏。
楽器の名前はオートハーブ。
それだけの情報で正体もなにも判らないのに
「あのスゴイ音のするオートハープが欲しいぞっ!!」
とちす君は思いつめてしまったのです。
その週末。ちすの住んでいた街には駅前に楽器屋が1軒あるだけだったので、
まずはそこに行ってオートハープとやらの正体を探ることにしました。
「こんにちわぁ」
「いらっしゃい、なんヤ○○ん家のボンかいな。どうしたん?」
「あんなー、オジサンなー。オートハープって楽器知っとぉ?」
「何、それ?ちょっと待って(カタログを見て)無いなぁそんなん。何の楽器なん?」
「弦がいっぱい付いててな、フォークソングで使うネン」
「弦がいっぱい。・・いゃあ判らんワ」
すごすごと帰ったがここでメゲナイちす君。
今度はいつもフォーク集会に連れて行ってもらってるちす父の教え子さん達の部室に行って。
「あのな、こん前ラジオで聞いたんケド、オートハープって楽器知っとぉ?」
「オートハープ?クロマハープやったらTが持っとぉで」
やったー!!
なんか判らんけれど1歩前進っ。名前が似てるからなんか似たような楽器だろう(安易なやつ)
で、初めて音に触れてから、(だから初めてじゃあないってーのに)
4日後。やっとちす君はクロマハープと「ご対面ーーんっ」することになりました。
弾いてくれる持ち主のT氏のつたない演奏<(をいっ)に
「これっ、これやんかニィチャン」と、感激するちす君。
「で、これなんぼくらいするのん?」
「京都のJ屋で\14000やったかな」
「うっわー、高ぁー」
「高ぁーって楽器ヤで。ホンマもんのオスカーシュミット(かわいそうな東海楽器サン)
やったら5万以上するんやから」
爆走モードだったちす君、ここで一気に急ブレーキがかかりました。
「そういえば楽器って高いんヤ・・・」
当時の小学生にとって\14000って金額は、
年に1回お年玉のシーズンにコビ売りまくって<(をいっ)
も手にできない金額です。そんなものあるワケがない。
かといって「なぁー、おとーさん買おてーなぁ」で買ってくれるような親じゃあない
<(深夜放送の聴き過ぎで中間テストがボロボロだった直後だったりする)
その上。当時筋金入りの電波少年だったちす君は
おこずかいの殆どを無線機につぎこんでいたので貯金などは(今もだけど)
全然無いっ!!
ダメを覚悟で「なぁー、おとーさん」をやってみましたが「あかん!!」の一言で玉砕
<(あたり前)
しかたなく2週に1回の集会
<(前述のちす父の教え子さん達のところに「勉強を教わりに行く」
と言う名目でギターを教わりに」行っていたのです)
のたびにクロマハープを弾かせてもらって我慢していました。
<(と、言っても持ち主もよく弾き方を知らないのでジャラーンだけなんだけど)
そんなこんなで2ヶ月弱が過ぎて1973年1月。その年始めの集会でT氏が
「○○君、これやるワ」とクロマハープを差し出してくれたのです。
「えっ、なんでぇ?」
「ワシ、今年卒業で家に帰るよってナ。1人で歌もやっとれんからお年玉にやるワ」
いゃあ、ちす君舞い上がりましたネ。
部室に天井が無かったなら月に到達した人類として5番目にちす君の名前が刻まれたでしょう(笑)
でもここはお家がウルサイちす君でしたので
「ちょっとまってナ、家に電話するから」
「センセには言ってあるで、センセに言ぅたらな
『ほっといてもいつまでもウルサイから要らんかったらやったってくれ』って言いはったんやワ」・・・・うーん、お父様感謝っ!!
結局、ただではナンなのでその年のちす君のお年玉全部にちす父がいくらか足してT氏には
「お餞別」としてお返しをして、はれて東海クロマハープはちすのものになったのでした。
あれから30年・・・飽きっぽいちすがなぜか離れることができないオートハープ。
不思議なご縁です。
生まれて初めてオートハープを聴いたのは、何時の事だろう・・・。
中学1〜2年くらいだったか・・・五つの赤い風船の「遠い世界に」を、学習発表会で
披露するのにレコードを聴いたと思う。 ギターとは違う、ここち良い気持ちになり
ずーっと胸に響いていた。 ナマのオートハープを見たのは、随分あとの事でした・・・。
たしか・・・ナターシャーセブンのコンサートだった・・・様な記憶ですが、その時は
あれがオートハープだとは分からなかったのです。
あれから随分時間がたって、高石ともや・野田淳子・坂庭省悟・五十川清・横井久美子・高田渡
くらいしか、弾いている姿を見た事がない・・・。 いつも、シャカシャカ弾いているって
イメージがあったのですが、この間、たぶん初めて木崎さんの演奏を拝見させて頂いた。
みんな、シャカシャカ弾いているモンだと思っていたのですが、木崎さんの演奏は蜘蛛が走って
いる様な素早い動きで、ビックリしました。 上手く云えませんが、オートハープって
あんなに沢山の音がするんですね。 もっともっと聴きたかった・・・です。
地球が暖まってきているそうです。
で、地球が暖まると誰が困るか・・・はい、なんといってもそれは「ぶっとい方々」ですネ。
<(あ、・・言い切るかぁ、こいつ)
ちすの私的な調査によりますと太っている人の78.2%は暑がりです。<(細かいやつ)
つまり太ったヒトにとっては地球温暖化は大問題。
なんとしても避けたい切実な問題のはずです。
<(いゃ、そういう観点で・・)
「ちょっとまて、太っているので暑いのなら、節食して痩せればいいじゃん・・」
はい、
それは勝手な言い分です。
ヒトと言うものは、いえ生物と言うものはみんな同じではありません。
新陳代謝が個々に違うのですから
まったく同じような食生活をしていても体形は違ってくるのです。
つまり、太ったヒトが大食とは限りません。
だいたいヒトが痩せたところでせいぜい棺桶が小さくて済む程度の利点が
あるだけのことです。耐久力は絶対に太い方があるんですから。
「運動なりの努力で体脂肪を減らせば、体形を維持して暑さはしのげる・・」
努力と根性ねぇ・・・
そういう言葉は努力と根性を経験せずに何らかの成功を得たヒトの言い草です。
ただの成功者の讒言にすぎません。
本当に努力と根性で苦悩を乗り切ったヒトなら、
他人にそんな辛い思いを勧めるような事はしません。
実は楽して苦悩を乗り切った成功者がそうもいえないもんだから、
さも努力をしたように言っているだけです。
・・と、しょっぱなから脱線しておりますが、「地球温暖化」
いったい何が原因なのでしょう?
一般的には、炭酸ガスというのが通例で、その一番の要因は電力消費と言う事みたいです。
ちすの職場でもお昼休みに「無駄な照明は消しましょう」などという社内放送が流れます。
とっころが資料を見ると電力消費量に照明がしめる割合は7%。
その上オフィスの照明の大半である蛍光灯はその消費電力の65%が点灯時に消費されます。
つまり、1時間程度の消灯ならしないほうがマシとなってしまうのです。
「無駄な照明を消すのは無駄なのでやめましょう」が正論ですネ。
んじゃ、わが国で電力を大量に消費しているものは何か?
それはなんといっても冷房です。
それもオフィス街の冷房。
夏のオフィス街のビルはビルから吐き出される熱気で陽炎が立ち、
上空を飛んでいる鳥がいきなり乱気流に巻き込まれて墜落するという事故が
年間10数件あると言われています。
おかげでオフィス街の気温は周辺よりも摂氏2度は高く、そのために
またまた冷房を強くする。つまり
「暑いから冷やす冷やすからもっと暑くなる」の図式が繰り返されているのです。
それではなぜ、そんなにオフィス街が暑いか・・・
なんといってもこの原因はビジネススーツです。
ちすもお仕事の時にはスーツを着用していますが、はっきり言ってスーツは暑い衣服です。
くっそ暑い夏場にネクタイをしめてスーツを着るという
気違いじみたビジネスマンの行為が無くなれば、
自家用車を閉め出すこともなく我が国の二酸化炭素削減割当てはクリアできるはずです。
問題は「ビジネススーツを着ていないと失礼」と言うマナー感覚。
皆様、ご記憶にある方もおられるでしょうが「省エネスーツ」
結局、消えてしまいましたよね。
いったい何がビジネスマンを日本のような亜熱帯地方で寒帯域の英国の服装
を着るというような狂気に駆り立てているのでしょうか。
・他人と同化する事での安心感
・苦痛を共感することの連帯感
・汗だくで訪問してくる営業職を迎える優越感
いやいや、なによりも
「ええいっ!ビジネススーツが暑いなどとは努力と根性が足りんっ!!!」
って経営者の感覚でしょう。
ををっ、そうかぁ、努力と根性が地球を滅ぼすんだな・・。
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